フエは南北に細長いベトナムの中央に位置する、ベトナム最後のグエン王朝の古都だ。ベトナム戦争で伝統ある寺院や遺跡は大きな被害があったが、その後修復も進み世界遺産にも登録された。
午後夕立が来た。東南アジアではおなじみのことで、寺院の敷地に雨宿りした。何人か駆け込んで来た中に日本人のような若い女性がいた。かなり使い込んだ一眼レフカメラカメラを肩にかけていたので、同業者ではないかと思い声をかけた。
聞くとやはり日本の人で、カメラマンのアシスタント修行を終え、自分の進むべき写真の方向を模索しているという。何より印象深かったのが、底なし沼のように深いハングリーな目をしていたことだ。スペインの旅をしていた若き日の自分の姿と重なった。貧乏旅行のようだったので、ご飯をご馳走して、幸運を祈り別れた。
何年かして写真展の案内状が届いた。彼女からだった。写真は若い女性ならではの、みずみずみずしい感性にあふれる傑作だった。
彼女は今、世界で活躍する人気写真作家になっている。