函館は私の写真の出発点とも言える街だ。前置きが長くなる。大学3年の冬に、卒業制作の写真を撮ろうと、厳冬のオホーツク海に向かったが、あいにくの暖冬で、流氷も来ていなかった。
写真の手応えもなかったが、ひとまずプリントした。ゼミの担当教諭三木淳先生の「何も写っていないじゃないか」の言葉にはへこんだ。先生にはカメラ用の高価な防寒グローブまで借りて行ったというのに。
その後、困り果てたまま4年の夏休みも近づいてきた。同級生は着々と成果をあげ始めていて焦った。ある日、先生に「どうするんだ」と問い詰められ、函館の街が思い浮かんだ。歴史の浅い北海道でも、かつての北の玄関口函館は、古い洋館なども立ち並ぶ、物語と風情のある街で、私にとっても勝手知ったる街だ。
「函館に行きます」窮した後の思いつきだ。そんなことはお見通しの先生は、「まあやってごらん」と言われた。私にも多少の作戦があった。当時流行っていたフィルムの高温現像による、粒子の荒れた写真で行こうと決めていた。