坂の上り下りが続き私たちもヘトヘトだ。ラジエターの水も沸騰している。木陰に車を止め、遅い昼食にした。彼の用意した、パン、サラミ、きゅうり、で腹ごしらえ。黙々と食べていると、何やら不思議な連帯感が湧いてくるのだった
再び出発。今までバックギアでは走った上り坂も、とうとう動かなくなった。道ゆく車に頼み、ロープで引いてもらったが、微動だにしない。万策尽きた親父さんは「ガソリンに不純物が入っていた」と言い訳を始めた。そのうち自転車の空気入れのような物で、ボンネットの中のどこかに空気を送り始めた。
すると奇跡が起きた。本調子ではないがエンジンがかかったのだ。だましだましなら走れそうだ。途中素晴らしい光景を何度もやり過ごし、車は何とか走り続けた。しかし釣り逃した魚は大きい!
陽のあるうちにはバクーに到着した。あの尊大な親父さんは別れ際、気持ちが悪いほど愛想がよかった。バクーの人々はカスピ海の涼風に吹かれて、ゆったりと夕食後の散歩を楽しんでいた。