
昼間行方知れずだった巨漢氏が、夕方座席に戻ってきた。「一杯やろう」彼の大きなボストンバッグからウォッカが1本出てきた。中には1ダースほどの瓶が入っている。「モスクワで買うと高いから持ってきたのさ」
今までどこにいたのか聞くと、食堂車で働いている友人がいて、奢りで4本空けてきたとご機嫌だ。ヤクザ氏は寝ていて、アフリカ西海岸からの留学生だという生真面目な黒人青年は、酒は飲めないと言うので、私一人が相手になった。小ぶりのコップに2センチほど注ぐと一気に飲むのがこちら流。私がちびちび飲んでいると、「なんて飲み方だ」と渋い顔をされた。
彼は国営のセメント会社の管理職で、モスクワの親戚に会いに行くという。今の給料だけでは生活できないので、部屋を貸したり、白タクで人を乗せたりして、何とか食いつないでいるそうだ。
いつもそんなに飲むのか聞いたら「今はホリデー。楽しまないと」午後8時頃に1本空くと、彼はまたどこかに出かけて行った。体重は145キロだと自慢げに言い残して。