
シベリア鉄道の車中は、ロシアの路地裏そのものだ。様々な人生を抱えた人が一晩、あるいは数日間を一緒に過ごす。コンパートメントには二段ベッドが2つ向かい合っていて、4人がその空間で、寝起きする。初対面なのに、まるで古い知り合いのように、ごく自然に会話が始まる。
食事時間には、持参の黒パン、野菜、ハムなどを窓際の小さなテーブルに広げて、「食べなさい」とよく勧められた。定番は、サーロという豚の脂身の塩漬けを燻製にしたもの。それを薄切りにして、黒パンに乗せて食べると、絶妙なハーモニーが口中に広がる。
正確にはシベリア鉄道ではないが、ウクライナのオデッサからモスクワまでの夜行寝台に乗った時のことだ。コンパートメントには、物静かで小柄な黒人青年。哀愁を滲ませたヤクザ風の初老の男。体重は優に100キロを超えていると思われる、饒舌で陽気な農民風の中年男。そして私の4人が一緒になった。13:55出発。モスクワには明日16:20着。約26時間の汽車旅が始まった。