バルセロナのカメラマン、ジョアンの事務所を3年ぶりに訪ねたら、今ドイツに住んでいると言う。番号を聞き早速電話をすると、「遊びに来いよ。近くじゃないか」と言う。近くもないぞと思ったが、行くことにした。20代の私はフットワークも軽かったのだ。
ドュッセルドルフは経済的に豊かな街と聞いていたが、私には寂しげに感じられた。彼も数年でめっきり白髪が増えていた。聞けばドイツ人の彼女を追って、バルセロナの仕事や事務所は全て畳んできたのだと言う。今は小さなデザイン事務所で、不自由なドイツ語を使って働いていた。
「ドイツとスペインは違いすぎるよ。人間もよそよそしいし、仕事も機能一点張りだ」と日頃の不満が噴出した。その日彼女と共に夕食に招待されたが、二人の関係にも微妙な空気が感じられた。
来るべきではなかったか。でもここまで来たからには、ベルリンの壁は見て帰ろうと決めた。まさかこの翌年に壁が壊れるとは。期せずして、彼は私を大きな写真のテーマへと導いてくれたのだ