20代半ばを1年間過ごしたバルセロナは第二の故郷だ。スタジオマンで蓄えた資金を懐に、とにかく行ってみた。世界を回るカメラマンにスペイン語は必須に思えたし、何より海外で物怖じしない度胸をつけたかった。
初めてのヨーロッパでは、重厚な街並みに圧倒された。木造アパート暮らしの若者には、歴史の底力を見せつけられる思いだった。しかも道ゆく女性がみんな綺麗なこと!
知人の紹介で安アパートを借り、1日5時間コースの語学学校の手続きをした。この学校はスペイン語しか使わず授業をするのだが、母国語に一旦翻訳するより、体によく染み込んだ。ただしその日に出た単語は翌日までに覚えていないと、次の授業についていけないというスパルタ式だ。毎日何十もの単語暗記があり、頭が破裂しそうだったが、一ヶ月後には日常生活に不自由はなくなった。
頭が痺れた時は、細い路地の入り組んだ旧市街を散歩する。そこは庶民の生活の匂いに溢れた、ネオリアリズモ映画の世界。人の暮らしはどこも変わりはないのだと教えてくれた。