かつて撮った写真を見返して、「本当に自分が撮ったのか」と思うことがある。自画自賛ではない。いい写真が生まれる時は、自分の能力を超えた大きな力が働いていると言うことだ。アスリートがよく言う「ゾーンに入る」という感覚に近いかもしれない。集中力が高まり、自意識など遠くへ飛んでいってしまった時、予想もしていない映像が、向こうからやって来る感じだ。ロシアを旅した時も幾度かこんな感覚に襲われた。
イルクーツクはシベリアの中心都市。冬はごく普通にマイナス20度ぐらいになる。驚くのはこんな寒い中でも、市民はしっかり着込んで、ゆったりと散歩を楽しんでいることだ。なんという豊かな時間だろう。
感動に立ち止まりカメラを構えていると、足の裏から底冷えがじわじわと這い上がって来る。寒さのあまり意識がぼんやりとして来るほどだ。歩き続けていないと、体温の保持ができないのだ。
今日も絶妙のタイミングで、人々が登場する。辛い寒さも吹き飛ぶ嬉しい瞬間だ。(公明新聞9月30日付掲載)