
路地の真打ちは、北京の胡同(フートン)だろう。巨大ビルが増殖する北京にあって、一歩裏に回ると、元、明、清の時代に出来た四合院と呼ばれる建物の周りに、無数の路地が張り巡らされている。
ここには庶民の生活の全てがあり、ただ歩いているだけでも退屈することがない。道端で野菜を並べる人々、小商いをする店、麻雀に興じる人々、ススで真っ黒な顔をして練炭を売り歩く男、井戸端会議のおばさん、リタイアした老人たちもいい顔をして座っている。
残念なことに2008年の北京オリンピック前後には、再開発の名の下、その多くが破壊されたが、幸い一部の胡同は命拾いした。
夕方、家の前にコオロギの入った容器をたくさん並べ、その餌を作っている男がいた。中国には闘蟋(とうしつ)と呼ばれるコオロギ相撲の伝統があり、千年以上の伝統があるそうだ。強い雄を育てるため、餌にも気を配り、大切に育てるのだ。働き盛りの男が、こんなことに熱中するのも中国の懐の深さか。
何はともあれ、胡同は今も北京っ子の大切な心の故郷なのだ。
(公明新聞9月2日付掲載)