20代最後の年に、念願だった南米一周の旅に出た。だがそれは思いの外つらい旅となった。長期間日本語を話せず、活字を読めないことが、これほどの苦痛になるとは。旅には困らない程度のスペイン語は理解できたが、それは何の慰めにもならなかった。
そんな鬱々とした長旅を続けていた時、ブラジルに入って急に空気が変わったのを感じた。この国と人の持つ独特の開放感が、徐々に心に溜まった重りを溶かしてくれた。サンパウロの日本人街で、日本の古書を見つけた時の喜びときたら。
ブラジルで元気を取り戻した私は、東海岸をバスで北上し、大アマゾン河口の街、ベレンまでやって来た。ここは人口150万人の大都市で、アマゾン川の集散地だ。対岸は遥か彼方で、濁った泥流がムクムクと流れる様子は、怖いほどだった。しかもここから見える景色は大アマゾンの一部に過ぎない。
市場に並ぶ大ナマズの壮観。これが案外さっぱりとした白身で美味しい。そして川は子供たちのホームグラウンド。ワニなんて怖いものか!(公明新聞2月18日付掲載)