デジタルカメラが一般的なものになって、まだ十年ほど。当時「デジカメを買ったらインドに行ってみよう」と自分で決めていた。インドは敬して遠ざけていた国。これまで数多くの写真家が、素晴らしい作品を残している。今さら私が出かけても、という思いがあった。でもデジカメとインドがどんな化学反応を起こすのか、これは興味深々だ。
フィルムカメラには「やせ我慢の写真術」が求められる。むやみやたらとシャッターを切れない。これは旅に持って歩けるフィルムの数が限られていることと、フィルム代などの経済的側面もある。一度でいいから心ゆくまでシャッターを切ってみたい、写真家はみんな思っていたはずだ。デジタルはそんな願いを叶えてくれた。
インドは富裕層と庶民の居住区がはっきり分かれている。私が向かうのは後者。ここは今、急速な経済成長で活気に溢れている。路上はさながら生きた劇場で、個性溢れる登場人物が、次から次と現れては消えてゆく。私はデジカメで、思う存分シャッターを切る喜びを味わっていた。(公明新聞 4月30日付掲載)