2008年の北京オリンピックを前にして、中国全土は建築ラッシュに沸いていた。古い家屋は情け容赦なく破壊され、高層ビルがニョキニョキとその姿を現していた。路地裏が大好きな私は「今、記録しておかねば」という焦燥に駆られ、古い街並みを求めて、中国全土を駆け回った。
最初に訪れたのが重慶。水運の大動脈長江と嘉陵江に挟まれた、中洲の斜面に広がる街並みは、きっと素晴らしいはずだと、地図や写真で見当をつけた。訪れると、まさに今、破壊と建設の真っ只中。広がる瓦礫の空虚な空間の向こうに、無機質な高層ビルが立ち始めていた。幸い古い街並みもまだ残っていて、迷宮のような路地裏をひたすら歩き続けた。
そこは老若男女、生活者の熱気が溢れかえっていて、夢中でシャッターを切った。幼児のズボンのお尻の穴は、素早い排尿排便の為と知った。食事前の時間は、そこかしこの台所から、唐辛子たっぷりで炒めた、四川料理の煙が路地中に溢れる。これをうっかり吸い込むと、あまりの苦しさに悶絶しそうになるのだった。(公明新聞 4月16日付掲載)